信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会
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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School
of Medicine
2000.7.12 鎌田
シェーグレン症候群は臓器特異な自己免疫疾患で外分泌腺の系統的障害により、口腔乾燥、眼乾燥などの自他覚症状を呈する。
|原因
腺組織に対する自己抗体が産生され、唾液腺・涙腺などが障害されるにいたる。遅延型アレルギー主体の自己免疫機序により、T細胞ならびにB細胞が感作され、腺管上皮や腺自体が標的臓器となる。内分泌変調あるいは慢性炎症なども一つの病因と考えられている。
}発現
性別では女性が95%以上と大多数を占め、男性例は数%未満でごく少数である。発病年齢は平均48歳で、40~60歳代が多いが、20歳代あるいはそれ以下の若年齢の例もまれにみられる。
~臨床症状
主な症状は角膜・結膜炎、口腔内乾燥などの腺に関連して出現するもので、これを腺症状という。また、膠原病にみられるいくつかの身体症状を伴うことがあり、これを腺外症状という。
@腺症状
ロ唾液分泌低下と口腔乾燥症
ワそれに伴う口腔の変化:舌乳頭萎縮、味覚障害、粘膜平坦化、エナメル質亀裂・破折、多発性う蝕、咀嚼・嚥下障害、発語会話障害
ン唾液腺腫脹:耳下腺または顎下線の軽度持続性ないし一過性腫脹を示す。腫脹が片側性にみられたものでも、機能低下は両側ほぼ同程度のものを示す。
゙涙分泌低下、それによる乾燥性角結膜炎、異物感、光線過敏
゚鼻粘膜乾燥、鼻出血、皮膚乾燥
A腺外症状
ロ手・指などの慢性関節炎、関節痛
ワ顔面紅斑、皮疹、紫斑
ンレイノー現象、薬剤アレルギーなど
゙心・腎症状
検査
口唇腺生検(lip biopsy)、乾燥性角結膜炎(KCS)の検査と、唾液涙液分泌量測定が重要。これに加えて、唾液腺シンチグラフィーの経時観察も病態の把握に有意義である。耳下腺造影が行われることもある。
血液検査の所見では、白血球数減少、赤沈亢進、高γ-globulin血症、リウマチ因子、抗核抗体、SS-A抗体、SS-B抗体、LE細胞現象などのうち、いくつかの値が陽性あるいは異常を示す場合が多い。
$f断基準
涙の分泌低下の状態をSchirma Testで、唾液分泌の程度をガムテストで判定する。刺激時の混合全唾液10N/10分以下を分泌低下としている。唾液腺生検の病理組織所見では小葉内導管周囲の集簇性細胞浸潤の程度を観察する。唾液腺シンチグラフィーではアイソトープ99mTcO4の静注後30分以内の耳下腺・顎下線への取り込みの経過と、酸による味覚刺激後の腺からの排出の程度を判定する。唾液腺造影では、耳下腺腺体内のびまん性点状・顆粒状陰影を判定する。
m併症
ロ膠原病の合併
リウマチ性関節炎(RA)の合併が最も多く、シェーグレン症候群患者の約30%を占める。合併疾患の頻度は以下、全身性エリテマトーデス(SLE)12.8%、慢性甲状腺炎・橋本病7.9%、強皮症(PSS)7.9%、その他皮膚筋炎、慢性活動性(自己免疫性)肝炎、複合結合組織疾患(MCTD)、結節性動脈周囲炎、間質性肺線維症などがある。
以上のうち膠原病を伴わない一次性シェーグレンは約40%、乾燥病態が膠原病とともに発現する二次性シェーグレンは約60%である。
ワ疑性リンパ腫
本症で、稀にマクログロブリン上昇、肝・脾腫、全身のリンパ節腫脹を呈するものがある。唾液腺部でもリンパ球の腫瘍性集積や被膜を越えた浸潤があるが、悪性とはいえず、疑性リンパ腫と名付ける。ごく稀に悪性リンパ腫へ進展する例があるが、発生率は高いものではない。
ヮ。療
根本的治療法は少なく難病であり、臨床では対症療法を主体とする。
ロ喀痰融解剤、消化器系分泌促進剤:唾液・粘液の性状を変え、あるいは腺の分泌能改善に働く、向精神薬などの薬物による口渇にも有効
ワビタミンB群、および唾液腺ホルモン剤(パロチン)の内服
ン非ステロイド系消炎剤
゙ステロイド:少量の継続的使用(プレドニゾロンで一日10J)腺房の炎症性反応をコントロールして分泌改善が期待できる。ただし慢性化した症例での効果は少ない。
゚眼用局所用剤:人工涙液の点眼薬として1%コンドロイチン硫酸を用いる。
煬腔用局所用剤:人工唾液として1.0~0.7%のメチルセルローズ粘稠な溶液に少量の塩類と糖類を加えて用いる。
予後
乾燥症状の根本的改善は以上の如く困難を伴うものの、シェーグレン症候群単独では重症な全身疾患を示すことはない。合併症発現がある場合は、その種類と症状を注意深く経過観察する。
歯科診療時の注意点
・初期には見逃されやすい病気なため、乾燥状態などについて積極的な問診が必要。
・齲歯になりやすい、口、鼻、眼が乾きやすい、口腔内に糜爛ができやすい、物を飲みにくく、食物はお茶や水と一緒に飲むなどの症状に注意する
・治療中、唾液量が少ない
・服薬の有無に注意
<参考文献>
最新口腔外科学 医歯薬出版株式会社
口腔外科学 金芳堂
標準口腔外科学 医学書院
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